キャロットケーキって、なんだか不思議なお菓子です。にんじんが入っているのにちゃんとケーキで、しっとりしていて、スパイスが香って、上の白いクリームがやたら似合う。では、この“ちょっと変わった定番”はいったいどこで生まれたのでしょうか。
調べてみると、「イギリスが発祥」「スイスが本場」など、答えが割れます。でもそれは、どれかが間違いというより、キャロットケーキが長い時間をかけて形を変えながら育ってきた証拠です。この記事では、最古級の手がかりから、戦時中の広まり方、アメリカでの再ブームまでをつなげて、「キャロットケーキの発祥」について迷子にならずに理解できるようにまとめました。
「発祥」を一言で言えない理由
「最初のレシピ」なのか「定番化した国」なのか
「キャロットケーキ 発祥」を調べると、国名がいくつも出てきて混乱しがちです。これは、そもそも「発祥」を何で決めるかが人によって違うからです。たとえば「最初に“にんじん入りの甘いもの”が登場した場所」を発祥と呼ぶのか、「いま私たちが想像する“ケーキの形”として広まった国」を発祥と呼ぶのかで答えが変わります。ウィキペディア
さらにややこしいのは、昔の料理名が現代と同じ意味で使われていない点です。昔の「プディング」は、いまのプリンのような甘いデザートだけを指しません。蒸し料理や詰め物料理まで「プディング」と呼ぶことがあり、同じ言葉でも中身が違います。だから「古いレシピにcarrot puddingがある=今のキャロットケーキがあった」とは言い切れません。
結局、「発祥」を一言で決めるよりも、「祖先にあたる料理がどこで育って、どの時代に今の形に近づいたか」を追うほうがスッキリします。この記事では、その流れを一本道にしていきます。
イギリス説・スイス説をスッキリ整理
議論でよく出るのが「イギリス説」と「スイス説」です。ざっくり言うと、イギリスは中世から近世にかけての“にんじんを使った甘い料理”の系譜が強く、古い英語のレシピが話題になります。一方スイスは、現在の「ケーキらしい姿」で地域の名物として定着してきた流れがはっきりしています。
スイス側で重要なのは、アルガウ州の伝統菓子として知られるリューブリトルテ(Aargauer Rüeblitorte)です。スイスの食文化の資料では、1892年にカイザーアウグストの家政学校のレシピ集に、かなり具体的な配合の印刷レシピが載っているとされています。
つまり「最古級の記録」を重視するならイギリス寄り、「いまの“定番スタイル”としてのルーツ」を重視するならスイス寄り、という整理がしやすいです。「キャロットケーキ 発祥」を考えるときは、この2つの軸を頭に置くと迷子になりません。
プディング→ケーキへ:姿が変わった歴史
キャロットケーキの歴史を追うと、最初からスポンジ状のケーキだったわけではありません。初期の形は、パン粉や脂、卵、果物や香辛料を混ぜて蒸したり焼いたりする“重ための甘い料理”に近いものでした。そこから焼き菓子の技術や材料が整っていくにつれて、オーブンで焼くケーキへ寄っていきます。
英語圏では「carrot pudding」という言葉がよく出てきますが、これは「にんじんを使った甘いものの入れ物」くらいの広い意味で見ておくのが安全です。近代に入ると、フランスの料理書に「Gâteau de Carottes(にんじんのケーキ)」の記載が出てきて、ケーキという呼び名が明確になっていきます。
そして20世紀になると、戦時中の節約や、健康志向の波と結びつき、いま私たちが知る「すりおろしにんじん入りのケーキ」に一気に近づいていきます。この「形の変化」こそが、「発祥」が一言で言えない最大の理由です。
「にんじん=甘味料」という発想はどこから?
中世のヨーロッパでは、砂糖は今よりずっと高価で、誰でも気軽に使えるものではありませんでした。そこで甘みを出すために、果物、はちみつ、干し果物、そして野菜の自然な甘さが利用されます。にんじんは加熱すると甘みが増えやすく、すりおろしたり刻んだりすると生地にも混ざりやすい。こうした性質が「甘い料理に入れる」発想につながりました。
ただし、にんじんを入れたからといって、砂糖の代わりに完全に“甘くなる”わけではありません。甘みは増えても、砂糖のキレや香りは別物です。だから昔のレシピでは、にんじんに加えて、デーツ(なつめやし)やレーズンなどの甘い材料が組み合わされることが多いのです。
現代のキャロットケーキが「しっとりしていて、甘くて、スパイスが香る」方向に落ち着いたのは、にんじん単体ではなく、こうした甘味素材とのセットが伝統として積み上がった結果だと考えると納得しやすいです。
史料の読み方(料理本・家庭の口伝・地域菓子)
食の歴史で気をつけたいのは、「書かれている=全国で食べられていた」ではないことです。料理本は、当時の上の層の家庭向けだったり、地域の学校用だったりして、実際の家庭の食卓とはズレる場合があります。だから、ある年にレシピが載っていることは大事でも、それだけで“その年に流行した”と断定はできません。
一方で、地域菓子として定着したものは、「その土地で作り続けられてきた」強みがあります。スイスのリューブリトルテが資料としてよく引かれるのは、地域名と結びつき、学校や家庭の中でレシピが共有され、ケーキとしての形が安定しているからです。
つまり「キャロットケーキ 発祥」を考えるときは、古い料理本だけで決めないこと。古さと定着の両方を見て、どの段階を“発祥”と呼ぶかを意識して読むと、情報に振り回されにくくなります。
中世ヨーロッパのルーツ:キャロットプディングの時代
砂糖が高級だったころの“甘さの工夫”
中世から近世にかけて、甘いものは今ほど身近ではありませんでした。砂糖が貴重で、使える量も限られると、料理人は「別の材料で甘みと満足感を出す」方向へ工夫します。そのとき活躍したのが、干し果物、パン(パン粉)、脂、卵、そして野菜の自然な甘さです。
にんじんが選ばれたのは、加熱で甘みが出やすく、細かくすると生地に混ざりやすいからです。さらに、パン粉は小麦粉の代わりとして生地をまとめ、しっとり感も作れます。こうした材料を合わせた“キャロットプディング的な料理”は、いまのキャロットケーキより素朴でも、方向性はすでに見えていたと言えます。
ここで大事なのは、「当時の人が健康のために野菜を入れた」というより、「材料事情と味の工夫として野菜が入った」という点です。現代の“ヘルシー感”は後から乗ってきたイメージで、出発点はかなり現実的でした。
1591年のレシピに見える「現代っぽさ」
「キャロットケーキの最古の手がかり」としてよく話題になるのが、1591年に出版された英語の料理書にある「pudding in a Carretroot」というレシピです。ただしこれは、現代のふわふわケーキとは違い、にんじんを使った詰め物料理に近い部分もあります。とはいえ、注目点はそこではありません。
そのレシピには、卵、脂、クリーム、レーズン、甘味(デーツや砂糖)、クローブやメースなどの香辛料、パン粉、そして削ったにんじんといった要素が見えるとされます。材料の並びだけ見ると、現代のキャロットケーキの“骨格”に通じるものがあります。
つまり1591年の記録は、「この時代にすでに、にんじん+甘味+スパイス+パン系で甘い料理を作る発想があった」ことを示す材料になります。ここを起点に「イギリス説」が語られやすいのは、この“材料のつながり”が強いからです。
レーズンやスパイスが入るのはなぜ?
キャロットケーキといえば、シナモンなどのスパイス、レーズンやナッツを思い浮かべる人が多いはずです。これは単なる飾りではなく、昔の甘い料理の作り方が背景にあります。砂糖が少ないと、甘さだけで押し切れません。そこで香りと食感で「ごちそう感」を出します。
香辛料は当時から貴重で、使うこと自体が特別感につながりました。クローブやメースのような強い香りは、少量でも存在感が出ます。レーズンやデーツのような干し果物は甘みの補強役で、噛んだときに甘さが集中して感じられるのが強みです。
また、にんじんは甘いとはいえ香りは控えめです。だからこそ、スパイスや果物が相棒として選ばれやすい。現代のレシピでもこの構図はあまり変わらず、「にんじんの土台に、香りと甘みの主役を足す」という考え方が続いています。
パン粉で作る“しっとり食感”の正体
キャロットケーキの魅力は「しっとり感」にあります。このしっとり感の歴史をさかのぼると、パン粉の存在が見えてきます。初期のレシピでは、小麦粉よりもパン粉やパンの中身を使う例があり、これが水分や脂を抱え込み、独特のしっとりした口当たりを作ります。
パン粉は、ただの代用品ではありません。パンの焼き香と、ほどよい粒が生む密度が、ケーキとも違う、プディングとも違う食感につながります。ここにすりおろしにんじんが入ると、野菜の水分でさらにしっとりしやすくなります。現代のキャロットケーキが「ほろっとしながら湿っている」方向に行きやすいのは、この系譜があるからだと考えると面白いです。
もちろん、現代はベーキングパウダーやオーブン温度の管理で、もっと軽い食感にもできます。それでも「キャロットケーキらしさ」として残るのは、パンや野菜の水分を活かした、少し重心の低いしっとり感です。
当時の「デザート」と現代の違い
最後に押さえたいのは、中世〜近世の「甘い料理」は、現代のデザートと役割が違うことです。現代は食後に軽く甘いもの、というイメージですが、当時は栄養と満足感をしっかり取る料理でもありました。脂、卵、パン、干し果物はカロリー源で、作るのにも手間がかかります。
だから「にんじん入り=ヘルシー」というより、「少ない甘味でも満足できる、工夫の詰まった甘い料理」だったと考えるほうが近いです。ここを勘違いすると、歴史の読み方がズレます。昔のレシピは、健康志向の象徴というより、材料事情と味の知恵の集大成でした。
この違いを理解すると、「キャロットケーキ 発祥」を追う旅が一気に立体的になります。今の私たちが食べる一切れの背景に、甘味の価値そのものが違う時代が横たわっているからです。
第二次世界大戦とイギリス:配給が広めた家庭のおやつ
砂糖・バター不足と「にんじん推し」
20世紀のキャロットケーキ史で外せないのが、第二次世界大戦期のイギリスです。砂糖などが配給になり、いつものお菓子が作りにくくなりました。そこで注目されたのが、国内で手に入りやすく、加熱で甘みが出るにんじんです。にんじんを混ぜることで、砂糖の量を減らしても「甘いものっぽさ」を作れます。
当時の政府機関である食糧省(Ministry of Food)は、家庭が工夫して食を回せるようにレシピや情報発信を行いました。にんじんを使った甘い料理や焼き菓子が推され、結果として“にんじん入りの甘い焼きもの”が広まりやすい環境ができた、と説明されることがあります。
この段階のキャロットケーキは、現代の豪華版とはだいぶ違います。それでも「にんじんを入れて甘さと食感を補う」発想が、家庭の標準的な知恵として定着した点が大きいのです。
国の宣伝で“全国区”になった説
イギリスでは戦時中、にんじんの消費を後押しする宣伝が行われたことでも知られています。たとえば「にんじんを食べると暗闇で目が良くなる」といった話は、実際には別の事情(軍事上の情報を隠す意図など)が背景にあったと紹介されます。こうした宣伝は、にんじんを“食べる理由”として分かりやすく、家庭に入り込みやすかったのです。
ここで誤解しやすいのは、「宣伝があった=キャロットケーキが国民食になった」と直結させることです。実際には、にんじんを使った料理全体の推進があり、その中で“甘い焼きもの”も作られた、というほうが丁寧です。帝国戦争博物館(IWM)の学習向け資料でも、配給の中で甘いものを工夫して作った例として、にんじんを使う発想が語られています。
つまり、戦時中のイギリスは「キャロットケーキ 発祥」そのものというより、現代につながる“普及のエンジン”になった、と捉えるのがしっくりきます。
焼く?蒸す?調理法の違いが味を変えた
戦時中のレシピは、材料だけでなく作り方も現代と違います。オーブン事情や燃料事情、家庭の道具の違いもあり、焼くより蒸す、あるいは簡易的に作る方向へ寄ることがありました。結果として、食感がケーキというよりスコーンに近かった、という説明も見られます。
また、戦時中の食糧省の資料由来として紹介されるレシピには、砂糖がごく少量で、オートミールなどを使う例もあります。これだと甘さは控えめで、食事寄りの焼きものになります。現代の「濃厚なスパイスとフロスティング」のイメージとは別物ですが、目的が違うので当然です。
この「調理法と目的の違い」を理解すると、戦時中のキャロットケーキを無理に現代と同じものとして扱わずに済みます。そして、後のアメリカ型に移るとき、なぜ一気にリッチになったのかも見えてきます。
戦後にいったん落ち着いた理由
戦争が終わり、砂糖やバターの供給が戻ってくると、「わざわざにんじんを入れて甘さを補う必然性」は弱まります。もちろん、味として好きになった人は作り続けますが、社会全体の“必要”としての位置づけは薄れていきます。ここが、戦時中の普及だけで「発祥」と断定しにくいポイントです。
さらに、戦時中に作られたバージョンは、現代のケーキのような華やかさより、実用性が優先されていました。甘いものが自由に作れる時代になると、より派手で分かりやすく甘いデザートが目立ちます。結果として、キャロットケーキは一時的に“主役の座”から外れやすくなります。
ただ、この「いったん落ち着く」時期があったからこそ、後にアメリカで“別の理由”で再評価されたとき、より強いインパクトで戻ってきた、とも言えます。歴史は一直線ではなく、波のように行き来するのが面白いところです。
ここで固まった「家庭菓子」のイメージ
戦時中のイギリスが残した最大の遺産は、豪華なレストラン菓子というより、「家で工夫して作るおやつ」というイメージです。食糧省が配布したレシピや家庭の創意工夫は、にんじんを“お菓子の材料”として当たり前に扱う感覚を広げました。
この感覚があると、後の時代に健康志向が高まったとき、「野菜が入ったケーキ」という説明が受け入れられやすくなります。まったく新しい発明としてではなく、「昔からそういうの、あるよね」という土台ができるからです。
だから、戦時中のイギリスは「キャロットケーキ 発祥」を語るうえで、起点というより“定着の土台づくり”として大きい。ここを押さえると、次のアメリカ編がより分かりやすくなります。
アメリカで再ブーム:ヘルシー感とクリームチーズの魔力
1960〜80年代に人気が戻った背景
アメリカでキャロットケーキが目立つようになるのは、20世紀後半だと説明されることが多いです。資料では、1960年代ごろからレストランやカフェテリア(食堂)で見かけるようになり、最初は珍しさから、やがて定番のデザートになっていった、という語られ方があります。
ここで重要なのは、戦時中の「節約の甘いもの」とは別の理由で受け入れられた点です。アメリカでは、食の豊かさの中で「ちょっと健康っぽい」「でもちゃんとおいしい」という立ち位置が強みになります。キャロットケーキはまさにそのポジションにハマりました。
さらに1970年代には、話題の食べ物として取り上げられることもあり、人気が広がったとされます。流行から定番へ移るときの“追い風”が、この時期に吹いたと考えると流れがつながります。
「野菜入り=体に良さそう」がウケた話
キャロットケーキの面白いところは、ケーキなのに「ちょっと罪悪感が軽い顔」をしていることです。もちろん、砂糖や油脂を使う以上、サラダみたいに軽いわけではありません。でも、にんじん、ナッツ、スパイス、ドライフルーツなどが入ると、見た目も味も“ちゃんとしている”感じが出ます。
20世紀後半のアメリカでは、健康志向や自然食っぽいイメージが広がる時期がありました。そこで「野菜が入っている」「素朴そう」「家庭的」という説明が、デザートの売り文句として使いやすかったのだと思われます。実際、研究・講義資料でも、健康志向の波の中でキャロットケーキが“より良さそうなデザート”として受け止められた、という趣旨の説明が見られます。
この“イメージ戦略”が成り立つのは、昔からにんじん菓子の系譜があったからです。完全に新しいものだと警戒されやすいですが、「昔からある延長」に見えると受け入れられやすい。歴史の積み重ねが、ここで効いてきます。
クリームチーズフロスティングが定番になった理由
アメリカ型キャロットケーキの決定打は、上にのる白いクリームです。クリームチーズのフロスティングは、スパイスの効いた生地と相性がよく、甘いのに少し酸味があって、食べ飽きにくい。これが「一切れの満足感」を一段上げます。
20世紀後半に、クリームチーズ関連のレシピが広がったことが、キャロットケーキとの結びつきを強めた、という説明もあります。講義資料では、1960〜70年代に広告やレシピ配布が増え、キャロットケーキとクリームチーズが切り離せない組み合わせになっていった趣旨が語られています。
ここが、戦時中のイギリス型と大きく違う点です。イギリスの配給期は「甘いものを成り立たせる」方向でしたが、アメリカ型は「よりおいしく、よりリッチにする」方向。キャロットケーキが“ごほうびデザート”として定着したのは、この転換が大きいです。
ナッツ、パイナップル…“アメリカ流”の広がり
アメリカのキャロットケーキは、自由度が高いのも特徴です。くるみやピーカン、レーズン、ココナッツ、パイナップルなどが入るレシピが見られ、「これを入れたらダメ」というより、「入れたら個性が出る」という方向へ広がりました。こうしたバリエーションが、“家庭の味”を作りやすくします。
パイナップルが入ると、甘みと酸味、水分でさらにしっとりします。ナッツは香ばしさと食感を足し、スパイスの香りとも相性がいい。材料を足すほど濃厚になりますが、にんじんの存在が不思議と全体をまとめます。こうして「うちのキャロットケーキ」が生まれ、家庭や店ごとの定番になっていきました。
この広がりが起こった結果、世界中で「キャロットケーキ=クリームチーズの白いクリーム」というイメージが強まります。発祥の議論とは別に、現代の“標準スタイル”を作った中心がアメリカにある、と言いやすい理由がここにあります。
カップケーキ化・レイヤー化で一気に定着
人気が出ると、形も変わります。大きな一台のケーキだけでなく、層にして豪華にしたり、カップケーキにして持ち歩きやすくしたり。キャロットケーキは生地が崩れにくく、しっとりしているので、こうした変化に向いています。上のクリームが映えるのも強みです。
「レイヤーにしてたっぷり塗る」「カップにして上だけ山盛り」など、見た目のごちそう感が増えると、誕生日やパーティーの選択肢にも入りやすくなります。こうして、家庭のおやつからイベントの主役へも進出しました。
この段階まで来ると、「キャロットケーキ 発祥」はもはや一点ではなく、長い進化の結果だと実感できます。古い系譜と、戦時の普及と、アメリカの再発明。それらが合流して、いまの一切れになっています。
いま食べるキャロットケーキの楽しみ方
発祥ストーリーを語れる“通”な注文のコツ
カフェでキャロットケーキを見つけたら、「どの系統かな?」と想像してみると楽しくなります。クリームチーズがどっさりならアメリカ型の雰囲気。上がレモンの砂糖衣(グレーズ)っぽいなら、ヨーロッパのナッツ系に寄っているかもしれません。
店員さんに聞けるなら、「スパイスは何を使ってますか」「ナッツは入ってますか」と軽く聞くだけで、背景が見えます。にんじんの甘みを前に出す店もあれば、シナモンなどの香りを主役にする店もあります。発祥を語るときも、「イギリスの古いにんじんプディングの流れがあって、戦時中に広まって、アメリカでクリームチーズと結びついたんだよ」と言えると一気に通っぽいです。
“歴史の話題”は難しそうに見えて、実は注文の会話にちょうどいい雑学です。甘いものを食べながら、甘い話をする。キャロットケーキは、そのネタを最初から持っています。
味の決め手:スパイスは何が効いてる?
キャロットケーキの味を決めるのは、にんじんだけではありません。むしろ主役級なのがスパイスです。代表はシナモンですが、ジンジャー、ナツメグ、クローブなどが組み合わされると、香りが一気に立体的になります。古いレシピの系譜でも、クローブやメースのような香辛料が登場するとされ、香りで特別感を作る発想は昔から続いています。
同じキャロットケーキでも、「シナモンが強い」「ジンジャーがピリッとする」「ナツメグがふわっと残る」など印象が変わります。食べ比べるときは、まず一口目で香りを確認して、次に甘み、最後に後味を見てみてください。香りの出方で、店の狙いが分かります。
クリームチーズのフロスティングがある場合、酸味がスパイスの香りを引き締めます。逆に甘いグレーズだと、香りより“素朴な甘さ”が前に出やすい。どちらが正解ではなく、どちらも歴史の流れの中で育った別の顔です。
しっとり派/ふわ派:お店選びのポイント
キャロットケーキは「しっとり」が有名ですが、実はお店によって食感がかなり違います。油分をしっかり入れて密度を出すタイプは、フォークを入れると少し重みがあり、口の中でほどけます。反対に、泡立てや粉の配合で軽さを出すタイプは、ふわっとして香りが先に広がります。
見分けるヒントは断面です。すりおろしにんじんが細かく全体に溶けていると、しっとり系になりやすい。ナッツが大きめに見えると、食感で楽しませる方向のことが多いです。クリームの厚みも手がかりで、厚いほどアメリカ型の“満足感重視”に寄りやすいです。
食べる場面でも選び方が変わります。コーヒーでキリッと合わせるなら、濃厚でしっとりが強い。紅茶で香りを合わせるなら、スパイスが華やかで軽めが合うこともあります。味だけでなく「その日の気分」で選ぶと、キャロットケーキがもっと身近になります。
家で作るなら:にんじんの水分と甘さ調整
家で作るときのポイントは、にんじんの水分です。にんじんは個体差が大きく、すりおろすと水分がたくさん出ることがあります。水分が多いとベチャッとしやすいので、すりおろした後に軽く水分を切るか、粉やナッツで吸わせる意識を持つと失敗しにくいです。
甘さの調整もコツがあります。「にんじんが入るから砂糖を大幅に減らしても大丈夫」と思うと、物足りなくなる場合があります。歴史的にも、にんじんは甘みの補助であって、干し果物や砂糖と組み合わせて成立してきた流れがあります。
初心者はまず、レシピ通りの砂糖量で一度作って、次回から少しずつ調整するのが安全です。スパイスは入れすぎると薬っぽくなるので、控えめに始めて好みに寄せるのがおすすめです。家庭で作ると「自分のキャロットケーキ史」が始まるので、発祥の話がいきなり自分ごとになります。
日本のカフェ人気と“次の流行”予想
日本でもキャロットケーキはカフェの定番になりつつあります。理由はシンプルで、コーヒーや紅茶に合い、見た目が落ち着いていて、季節を問わず出しやすいからです。さらに「海外の定番菓子」という安心感もあります。発祥の物語を添えると、メニューの価値も上がります。
これからの流れとしては、2つが伸びそうです。1つはスイス寄りのナッツ感の強い軽めタイプ。もう1つはアメリカ寄りの濃厚タイプを、サイズを小さくして食べやすくする方向です。小さくして満足感を残すのは、今の時代の気分にも合います。
そして、発祥談義ももう一段進んで、「どの国が元祖か」より「どの系統が好きか」に話題が移るかもしれません。キャロットケーキは、歴史が長いぶん、好みの分岐点が多い。だからこそ、これからも飽きられにくいデザートだと思います。
まとめ
「キャロットケーキ 発祥」を一言で決めにくいのは、最初から今の形だったわけではなく、にんじんを使った甘い料理が時代ごとに姿を変えながら受け継がれてきたからです。古い英語のレシピ(1591年)のように“材料の骨格”が見える記録があり、スイスではアルガウ州のリューブリトルテが地域菓子として形を固め、印刷レシピの手がかりも残ります。
さらに第二次世界大戦期のイギリスでは、砂糖の配給などを背景に、にんじんを活かす工夫が家庭へ広がりました。そして20世紀後半のアメリカで、健康っぽいイメージとクリームチーズのフロスティングが結びつき、現代の定番スタイルが強く定着していきます。
つまり、発祥を「一点の場所」ではなく、「中世の知恵→戦時の普及→近代の再ブーム」という流れで捉えるのが、いちばん正確で面白い見方です。
